[ テーマ: 商業登記 ]
2026年9月7日16:55:00
代表者の住所が登記簿に出なくなる?
最近、法人登記に関係する気になるニュースがありました。
法務省が2026年7月24日、「商業登記規則等の一部を改正する省令案」についてパブリックコメントを開始しました。
今回の改正案のポイントの一つが、代表者等の住所を登記事項証明書などに一部表示しない「住所非表示措置」の対象を広げることです。
現在、この制度を利用できるのは株式会社の代表取締役等に限られています。
それが今回の改正案では、株式会社以外の法人や組合にも対象を広げる方向となっています。
施行は、令和8年(2026年)12月が予定されています。
このニュースは、株式会社だけでなく、合同会社や一般社団法人を運営している方にも関係する話です。
会社や法人の登記簿を見ると、代表者の住所が登記されています。
「なぜ会社の住所だけではなく、代表者の自宅住所まで登記するの?」と思われる方もいるかもしれません。
代表者の住所を登記することには、代表者を特定したり、訴訟などの際の送達先を明らかにしたりするなど、登記制度上の意味があります。
一方、インターネットやSNSが普及した現在では、登記情報から代表者の自宅住所まで簡単に調べられることに不安を感じる人も増えています。
そこで、令和6年(2024年)10月から始まったのが、株式会社の「代表取締役等住所非表示措置」です。
一定の要件を満たせば、登記事項証明書などに表示される代表取締役等の住所について、市区町村などの最小行政区画より細かい部分を表示しないことができます。
たとえば、代表取締役の住所が次のように表示されている場合、住所非表示措置を利用すると表示範囲が限定されます。
ただし、住所そのものが登記されなくなるわけではありません。
また、住所変更登記が不要になる制度でもありません。
株式会社については、すでにこの制度が始まっています。
では、よく聞かれるのですが、合同会社はどうでしょうか。
合同会社の代表者は「代表社員」と呼ばれます。
株式会社の「代表取締役」と名称は違いますが、会社を代表する立場であることは同じです。
ところが、現在の住所非表示措置は株式会社を対象とした制度であるため、合同会社の代表社員は、この制度の対象ではありません。
そのため、合同会社の代表社員については、登記事項証明書を取得すると、原則として住所を確認することができます。
今回の改正案は、こうした状況を変えるものです。
株式会社だけを対象としていた住所非表示措置を、会社以外の法人や組合にも広げる方向となっています。
つまり、これまで株式会社と合同会社で異なっていた「代表者の住所の公開」という点についても、今後は差が小さくなっていくことになります。
もう一つ、今回の改正で注目したいのが一般社団法人です。
一般社団法人には「代表理事」がいます。
現在の住所非表示措置は株式会社を対象とする制度なので、一般社団法人の代表理事についても、株式会社の代表取締役と同じように住所非表示措置を利用できるわけではありません。
しかし今回の改正案では、会社以外の法人にも対象を広げる方向となっています。
そのため、一般社団法人を運営している方にとっても、今回の改正は無関係ではありません。
今回のニュースを理解するために、現在の状況を整理すると次のようになります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 | 一般社団法人 |
|---|---|---|---|
| 代表者 | 代表取締役等 | 代表社員 | 代表理事 |
| 住所非表示措置 | 利用可能 | 現在は対象外 | 現在は対象外 |
| 今回の改正案 | ― | 対象拡大の対象 | 対象拡大の対象 |
| 主な利用目的 | 営利事業 | 営利事業 | 非営利型を含む法人活動 |
こうして見ると、今回の改正は単なる「株式会社の登記制度の変更」ではないことが分かります。
会社だけでなく、法人全体の登記に関係する制度へ広がります。
そこが今回のニュースのポイントです。
代表者の住所を非表示にできる最大のメリットは、やはりプライバシーの保護でしょう。
特に、次のような状況にある方にとっては、自宅住所まで簡単に調べられることに抵抗があるかもしれません。
法務省も、インターネットやSNSの普及による住所公開への抵抗感や、ストーカー被害、過度な営業行為などへの懸念を制度導入の背景として説明しています。
住所非表示は、単純に「利用すれば得」という制度でもありません。
例えば、登記事項証明書だけでは代表者の住所を証明できなくなるため、金融機関からの融資や不動産取引などで、別途住所を確認するための書類を求められる場合があります。
今回の制度改正を見ていると、会社を設立するときに考えることも少し変わってきそうです。
株式会社と合同会社では、設立費用、意思決定の方法、役員の任期、利益配分など、さまざまな違いがあります。
これまでは、「株式会社と合同会社、どちらがいいですか?」という質問に対して、こうした制度上の違いを中心に考えていました。
これからは、そこに「代表者の住所がどのように公開されるのか」という視点も加えてよいでしょう。
特に自宅を本店所在地としている方にとっては、意外と大きな問題です。
そして、これは株式会社と合同会社だけの話ではありません。
一般社団法人を設立・運営している方にとっても、同じように代表者の住所公開という問題があります。
会社や法人の登記は、法律で決められた情報を公示する制度です。
そのため、代表者の住所が登記されることにも理由があります。
しかし、インターネットで情報が簡単に検索できる現在では、昔と同じように「公開することが当然」とはいえない部分も出てきました。
今回の住所非表示措置の対象拡大は、登記制度も社会の変化に合わせて変わっていることを示す一例だと思います。
株式会社、合同会社、一般社団法人…どの法人を選ぶかは、設立費用や税務だけでなく、事業内容や経営方法、そして代表者の情報公開の問題など、いろいろな角度から考える必要があります。
会社や法人を設立するときだけでなく、役員が変わったとき、本店や主たる事務所を移転したときなども、登記が必要になります。
「登記が必要になったから手続きをする」だけではなく、「今の会社・法人の登記は、現在の状況に合っているか」を一度確認してみるのもよいかもしれません。
執筆:司法書士 西尾努
(※本記事は一般向けの解説です)
会社の所在地が東京以外であっても、司法書士が法務局に現地の法務局に出向く必要はなく、オンライン申請で行うため全国対応可能です。
ご相談、ご依頼、見積もり書については、下記にお電話、またはメールによるお問合わせをご利用ください。
03‐5876‐8291 または、
司法書士西尾へ直通 090-3956-5816までお気軽に。
│この記事のURL|